神戸地裁判決についての声明

2006年6月10日

兵庫住基ネット訴訟(神戸地裁)判決についての声明

                          兵庫住基ネット訴訟団

 兵庫県内13市1町の住民105名の原告によって、住基ネット運用差止めを求めて提訴(2003年8月25日)された兵庫訴訟の判決が6月9日出されました。しかし、この判決は全く納得しがたいものであり、怒りと失望を禁じ得ません。控訴の意思を表明するとともに、ここに原告団としての見解を表明致します。
判決は、住基ネットの有用性の評価および行政に対する信頼性が過大である一方、住民の権利に対する認識が極めて低いばかりでなく、憲法解釈についても消極的姿勢が目立ち、全くの現状追認、深みのない判決だといわねばなりません。
本人確認情報について、「一定限度で個別的なコントロールを認めなければ憲法13条に違反することになるような情報とは解されず、一般的・抽象的に自己情報コントロール権が認められるとすることはできない」としていることは、本人確認情報の重要性と憲法13条の意義とに対する基本認識を欠いたものです。
本訴訟では、兵庫県の独自利用に際しての「セキュリティ体制・チェックリスト」問題が争点として浮上し、自治体によるセキュリティの均質性が確保されていないことが具体的に明白にされたにもかかわらず、判決は「県内市の管理体制に問題があったことは否定できないが、直ちに漏洩につながるものではない」などとして、「人格権侵害の具体的危険があるとまではいえない」と結論付けていますが、あまりに一面的、楽天的認識と批判せざるをえません。
折しも、憲法や教育基本法の改悪への動きが顕著になり、現実に表現の自由、内心の自由などが侵害されつつある状況にあって、私たち原告があまりに「神経過敏」「行政不信」であるといわんばかりの論調には、司法としての見識を疑うものです。司法が社会情勢に鈍感になり、行政に対する警鐘を鳴らす役割を怠るとき、司法の責務を放棄したものとの批判も過言ではないでしょう。
私たち原告団はこうした危機認識を共有しつつ、今後も主張と活動を継続していくことを表明します。以上、当面の声明とします。

06.06.09 神戸地裁が不当判決

兵庫住基ネット判決(6/9)について、とりあえず報告します。
6月9日、神戸地裁(橋詰均裁判長)で判決言い渡しがありました。結論から言うと「何ひとついいとこなし」の最悪の判決です。
1.個人情報の自己コントロール権は、権利としての根拠・定義が不明確。個人確認情報は思想信条等に関わりないもので、秘匿すべき情報にあたらない。
2.公権力から監視されない権利については、公権力からみだりの監視されない権利はあるが、住基ネットは、@利用が制限されている A違反した場合罰せられる B275事務を一括処理する機関はないことから、権利侵害を主張する前提となる事実がない。
3.漏えいの危険については、安全措置が講じられており、通常のインターネットからの侵入は考えられない。抽象的な危険はあるが、そのことをもって、行政の合理化という有用性のある住基ネットを禁ずる権利が発生するとは考えられない。という判決です。
こうなったら、腹を据えて控訴審にGOです。

05.10.28 大阪高裁が被告側即時抗告を棄却

6月30日に神戸地裁が出した文書提出命令に対して、被告側は7月11日付けで提出命令の取り消しを求める即時抗告を行ないました。そのため、10月7日の第10回弁論は高裁の決定待ちということで、実質審理なしに終わりました。被告側の即時抗告でこの間、大阪高裁が審理を続けてきましたが、高裁は10月28日に「抗告棄却」の決定を下しました。この件に関しては原告の勝利です。したがって、近々、文書の提出があることでしょう。
次回弁論は、12月16日(金)午前11時から 神戸地裁第204号法廷

神戸地裁民事第6部が兵庫県に対して文書提出命令

News NO,12でお知らせしたように、兵庫県が行ったセキュリティ体制チェックリストの提出を巡って争っていましたが、05年6月30日、裁判所により文書提出命令が出されました。

速 報
各市のセキュリティ体制チェックリストの提出を求めていた件で、神戸地裁第6民事部橋詰均裁判長が6月30日に提出命令を出していたことが分かりました。
概要は以下のとおり

当裁判所の判断
・証拠調べの必要性について
申立人らは、本件訴訟において、住基ネットにおけるセキュリティ体制が極めて脆弱であって本人確認情報が流出し、自己の人格権が侵害される具体的危険性があると主張しており、セキュリティ体制が極めて脆弱であることは、本件請求原因のひとつである。申立人の上記主張は、主張自体から既に理由がないというわけではないから、セキュリティ体制の脆弱性いかんは、証拠による認定が必要な事項である。
前記2の2(申立の経緯等)の事実に照らせば、本件文書が、被告各市のセキュリティ体制の脆弱性いかんを認定する手がかりとなる証拠であることは明らかであり、本件文書を取り調べる必要性は認められる。
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この件については、6月20日付で弁護団より意見書が出されており、22日にインカメラ手続き(裁判官のみのによる文書の閲覧)が行われました。裁判官が秘密裏に文書を見て、その上で提出命令を出したことになります。この提出命令が、どの程度裁判の行方を左右するかはわかりませんが、少なくとも裁判長は証拠調べをキッチリやろうとする姿勢は見せているように思います。

原告準備書面(1) 04.1.29

第1 個人情報の漏洩とプライバシーの侵害に関する最高裁判決について
1 原告らは,本件各訴状において,「権利侵害」の内容として,「自己情報コントロール権」を主張し,その根拠として個人情報がプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる旨主張した。
この点に関し,以下述べるとおり,昨年,原告らの主張に沿う最高裁判所の判断が示された。
 2 「早稲田大学江沢民主席講演会名簿提出事件」についての2003年(平成15年)9月12日の最高裁第2小法廷判決がそれである(判例時報1837号3頁以下)。
同事件の事案の内容は,早稲田大学において開催された江沢民中華人民共和国国家主席の講演会に参加申し込みをした同大学の学生についての参加申込者の名簿が,当該個人の同意なしに警察署に提出されたことに対し,その個人がプライバシーの侵害であるとして,学校法人早稲田大学に対し損害賠償を求めた事案である。
上記事件において警察当局に開示された情報は,参加申し込みをした学生の学籍番号・氏名・住所・電話番号であり,この点において本件と極めて密接に関連する事案である。
同事件の原審の判決(訴状において引用した東京高裁判決)は,上記の個人情報はプライバシーの権利ないし利益として,法的保護に値すると認定したものの,損害賠償請求については,当事者が情報の開示によって具体的な不利益を被ったとは認められないとし,更に開示の目的が正当であったとして,結論的に不法行為の成立を否定した。
これに対し,最高裁は,以下のように認定して,原判決を破棄し原審に差し戻した。
 3 まず判決は,前提問題として原審の判断を正当とし,「学籍番号,氏名,住所及び電話番号は,早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であつて,その限りにおいては,秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また,本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし,このような個人情報についても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」と極めて正当な判断を示した。
そして更に続けて,「このようなプライバシーに係る情報は取扱い方によつては,個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから,慎重に取り扱われる必要がある。本件講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集した早稲田大学は,上告人らの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されない」「本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続きを執ることなく,上告人に無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は,上告人らが任意に提供したプライバシ小に係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,上告入らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。」と明解に結論付けている。
4 上記最高裁の判断内容は,正に本件における原告らの主張の正当性を明確に根拠付けるものである。本件においても,住基ネット上に流される個人情報は,氏名・生年月日・性別・住所の基本4情報と,住民票コード,及び付随情報という,いわば「秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない」と言い得る情報であるが,それが「プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである」という上記最高裁の判断は,そのまま本件に当てはまるものである。
被告らは,本件において上記最高裁の判断を真撃に受け止めるべきであり,個人情報が如何に重要なものであるかについて認識を新たにすべきである。

第2 長野県における調査について
1 長野県において、平成15年8月15日に長野県知事が公表した「長野県の住基ネットに関する今後の方針」に基づき、市町村ネットワークのさらなる安全性確保のため、市町村の庁内ネットワークを通じた住基ネットシステムヘの不正アクセス及び住基ネットシステムからの情報漏洩の可能性の有無について確認するための調査が行われた(甲4の1、第1項、第3項)。
 2 調査日及び調査村
上記の調査は2回に分けて行われ、第1次調査は、同年9月22日から10月1日まで、阿智村、下諏訪町、波田町を対象に実施され、第2次調査は、同年11月25日から28日まで、阿智村を対象に実施された(甲4の1、第2項)。
3 調査内容
この調査は、庁内LANに接続しての、庁内LAN及び住基ネットワーク(市町村管理部分)の安全性調査、及び、インターネットからの安全性調査である。そして、この調査については、実験結果の信頼性を高めるために、総務省住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会委員である第3者に評価を依頼した(甲4の1、第4〜6項)。
4 調査結果の槻要
この調査は非常に限定された時間・範囲の中で行われたものであるが、その結果、インターネットからの侵入テストは成功しなかったが、自治体オフィスの中からの侵入テストは非常に成功した。
結論としては、当該ネットワ−クのセキュリティレベルは平均以下であり、平均的なコンビユータ・ネットワークエンジニアなら誰でも侵入することが可能で、住基ネット情報を含む様々な個人情報を盗んだり損害を与えることができる極めて危険な状態であるということが判明した(甲4の3)。
   詳細は追って主張する。
以上

早大名簿提出事件最高裁判決(2003.9.12)

 
判例 平成15年09月12日 第二小法廷判決 平成14年(受)第1656号 損害賠償等請求事件

要旨:
 大学主催の講演会に参加を申し込んだ学生の学籍番号,氏名,住所及び電話番号は学生のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となり,大学が学生に無断でこれを警察に開示した行為は不法行為を構成するとされた事例

内容:  件名 損害賠償等請求事件 (最高裁判所 平成14年(受)第1656号 平成15年09月12日 第二小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 東京高等裁判所 (平成13年(ネ)第5999号)

主    文
       原判決中,プライバシーの侵害を理由とする損害賠償請
       求に関する部分を破棄する。
       前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         

理    由

 上告代理人水永誠二,同渡辺千古,同林千春の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,早稲田大学等を設置する学校法人である。早稲田大学は,かねてより,諸外国の要人が来日した際,同大学へ招いて,その講演会を開催してきた。早稲田大学は,平成10年7月下旬ころ,中華人民共和国大使館から,同国の江沢民国家主席が,同年秋ころに来日する際,同大学を訪問したい旨の連絡を受け,同主席の講演会を開催することを計画し,警視庁,外務省,同大使館等と打ち合わせた上,同年11月28日に同大学の大隈講堂において同主席による本件講演会を開催することを決定し,同大学の学生に対し参加を募ることにした。
 (2) 本件講演会の参加の申込みは,平成10年11月18日から同月24日までの間に早稲田大学の各学部事務所,各大学院事務所及び国際教育センターに備え置かれた本件名簿に,希望者が氏名等を記入してすることとされた。本件名簿の用紙には,最上段の欄外に「中華人民共和国主席江沢民閣下講演会参加者」との表題が印刷され,その下に,横書きで学籍番号,氏名,住所及び電話番号の各記入欄が設けられ,参加申込者が1人ずつ記入できるよう,1行ごとに横線が引かれて各欄が囲われていた。上記用紙には,1枚につき,15名の参加申込者が記入できるよう,15行の欄が設けられていた。そして,本件名簿に氏名等を記入して本件講演会に参加を申し込んだ学生に対しては,参加証等が交付された。
 (3) 上告人らは,当時早稲田大学の学生であったが,本件講演会への参加を申し込み,本件名簿にその氏名等を記入して,参加証等の交付を受けた。
 (4) 早稲田大学は,本件講演会を準備するに当たり,警視庁,外務省,中華人民共和国大使館等から,警備体制について万全を期すよう要請されていた。そこで,早稲田大学の職員,警視庁の担当者,外務省及び中華人民共和国大使館の各職員らの間において,平成10年7月下旬ころから,数回にわたり,打合せが行われた。その中で,早稲田大学は,警視庁から,警備のため,本件講演会に出席する者の名簿を提出するよう要請された。
 (5) このような要請を受けて,早稲田大学は,内部での議論を経て,本件講演会の警備を警察にゆだねるべく,本件名簿を提出することとした。そこで,総務部管理課において,平成10年11月25日までに各事務所等から学生部に届けられた本件名簿の写しの提供を受け,同課の職員が,同日又は翌26日の夜,その本件名簿の写しを,早稲田大学の教職員,留学生,プレス関係者等その他のグループの参加申込者の各名簿と併せて,警視庁戸塚署に提出した。早稲田大学は,このような本件名簿の写しの提出について,上告人らの同意は得ていない。
 (6) 上告人らは,本件講演会に参加したが,江主席の講演中に座席から立ち上がって「中国の核軍拡反対」と大声で叫ぶなどしたため,私服の警察官らにより,身体を拘束されて会場の外に連れ出され,建造物侵入及び威力業務妨害の嫌疑により現行犯逮捕された。その後,上告人らは,本件講演会を妨害したことを理由として早稲田大学からけん責処分に付された。
 2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,違法な逮捕に協力し無効なけん責処分をしたことを理由とする損害賠償,同処分の無効確認並びに謝罪文の交付及び掲示を求めるとともに,被上告人が上告人らを含む本件講演会参加申込者の氏名等が記載された本件名簿の写しを無断で警視庁に提出したことが,上告人らのプライバシーを侵害したものであるとして,損害賠償を求めた事案である。
 3 原審は,前記事実関係の下で,プライバシーの侵害を理由とする損害賠償請求について,次のとおり判示し,同請求を含めて上告人らの本件請求をいずれも棄却すべきものとした。
 (1) 本件名簿は,氏名等の情報のほかに,「本件講演会に参加を希望し申し込んだ学生である」との情報をも含むものであるところ,このような本件個人情報は,プライバシーの権利ないし利益として,法的保護に値するというべきであり,本件名簿は,そのような情報価値を具有するものであったことが認められる。
 (2) 早稲田大学による本件名簿の警察に対する提出行為については,同大学が本件講演会参加申込者の同意を得ていたと認めるに足りる証拠はない。しかし,私生活上の情報を開示する行為が,直ちに違法性を有し,開示者が不法行為責任を負うことになると考えるのは相当ではなく,諸般の事情を総合考慮し,社会一般の人々の感受性を基準として,当該開示行為に正当な理由が存し,社会通念上許容される場合には,違法性がなく,不法行為責任を負わないと判断すべきであるところ,本件個人情報は,基本的には個人の識別などのための単純な情報にとどまるのであって,思想信条や結社の自由等とは無関係のものである上,他人に知られたくないと感ずる程度,度合いの低い性質のものであること,上告人らが本件個人情報の開示によって具体的な不利益を被ったとは認められないこと,早稲田大学は,本件講演会の主催者として,講演者である外国要人の警備,警護に万全を期し,不測の事態の発生を未然に防止するとともに,その身辺の安全を確保するという目的に資するため本件個人情報を開示する必要性があったこと,その他,開示の目的が正当であるほか,本件個人情報の収集の目的とその開示の目的との間に一応の関連性があること等の諸事情が認められ,これらの諸事情を総合考慮すると,同大学が本件個人情報を開示することについて,事前に上告人らの同意ないし許諾を得ていないとしても,同大学が本件個人情報を開示したことは,社会通念上許容される程度を逸脱した違法なものであるとまで認めることはできず,その開示が上告人らに対し不法行為を構成するものと認めることはできない。
 4 上告人らは,原判決のうちプライバシーの侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分を不服として,本件上告受理の申立てをした。
 5 原審の前記判断のうち,前記3の(1)は是認することができるが,同(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 本件個人情報は,早稲田大学が重要な外国国賓講演会への出席希望者をあらかじめ把握するため,学生に提供を求めたものであるところ,学籍番号,氏名,住所及び電話番号は,早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって,その限りにおいては,秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また,本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし,このような個人情報についても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
 (2) このようなプライバシーに係る情報は,取扱い方によっては,個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから,慎重に取り扱われる必要がある。本件講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集した早稲田大学は,上告人らの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ,同大学が本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ,それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては,本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく,上告人らに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は,上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,上告人らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。原判決の説示する本件個人情報の秘匿性の程度,開示による具体的な不利益の不存在,開示の目的の正当性と必要性などの事情は,上記結論を左右するに足りない。
 6 以上のとおり,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。原判決中プライバシーの侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分について更に審理判断させる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官亀山継夫,同梶谷玄の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官亀山継夫,同梶谷玄の反対意見は,次のとおりである。
 早稲田大学が本件個人情報を警視庁に開示したことは,上告人らに対する不法行為を構成しない。その理由は,次のとおりである。
 本件個人情報は,プライバシーに係る情報であっても,専ら個人の内面にかかわるものなど他者に対して完全に秘匿されるべき性質のものではなく,上告人らが社会生活を送る必要上自ら明らかにした情報や単純な個人識別情報であって,その性質上,他者に知られたくないと感じる程度が低いものである。また,本件名簿は,本件講演会の参加者を具体的に把握し,本件講演会の管理運営を円滑に行うために作成されたものである。
 他方,本件講演会は,国賓である中華人民共和国国家主席の講演会であり,その警備の必要性は極めて高いものであったのであるから,その警備を担当する警視庁からの要請に応じて早稲田大学が本件名簿の写しを警視庁に交付したことには,正当な理由があったというべきである。また,早稲田大学が本件個人情報を開示した相手方や開示の方法等をみても,それらは,本件講演会の主催者として講演者の警護等に万全を期すという目的に沿うものであり,上記開示によって上告人らに実質的な不利益が生じたこともうかがわれない。
 これらの事情を考慮すると,早稲田大学が本件個人情報を警察に開示したことは,あらかじめ上告人らの同意を得る手続を執らなかった点で配慮を欠く面があったとしても,社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であるとまでいうことはできず,上告人らに対する不法行為を構成するものと認めることはできない。
 よって,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は正当として是認することができ,本件上告は理由がないものとして棄却すべきである。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄)

逗子市個人情報保護運営審議会意見書(2003.11.14 )

住民基本台帳ネットワークシステムについて(意見)

第1 意見書の趣旨
逗子市個人情報保護条例28 条2 項に基づき、次のように意見を具申する。

1 市民の個人情報保護のため、全国の市町村がセキュリティ面での安全性を確保するまで、逗子市は住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の接続の一時切断を検討すること。
2 接続を再開する場合、自己の本人確認情報を住基ネットに送信することを同意した市民の情報のみ送信するよう検討すること。なお、「本人の同意」を得るためには、市が住基ネットについてメリットとデメリットを全て示して、市民に分かりやすく説明すること。
3 住民基本台帳カード(以下「住基カード」という。)の交付を希望する者には、カードの利点だけではなく、紛失・盗難などの場合の危険性やその場合の対処の仕方などを、市民にわかりやすく情報提供すること。

第2 意見書提出までの経緯
逗子市個人情報保護運営審議会(以下「審議会」という。)は、平成4 年4 月1 日逗子市個人情報保護条例(以下「条例」という。)の施行以来、今までに数々の諮問事項について審議をし、意見を述べてきた。特に、オンライン結合による個人情報の外部提供については、データを瞬時に大量に送ることができるという利便性がある反面、データのコピーが容易にでき、そのコピーがネットワーク上で無制限に流れる可能性があることから、条例11 条に従い、個別の事案ごとに事務の内容、目的、保有期間から廃棄にいたるまで厳格に審議し、慎重に結論を出してきた。

住民基本台帳法(以下「住基法」という。)が改訂され、逗子市が住基ネット実施の準備段階に入った平成13 年から、審議会は自ら調査し審議を始めた。
審議の中で、この制度が市民のプライバシーを侵害する可能性があるという問題が指摘された。しかし、住基法附則1 条2 項では「この法律の施行に当たっては、政府は個人情報の保護に万全を期するため、速やかに、所要の措置を講ずるもの」と規定している。審議会は、この「所要の措置」が適切に実行され、問題が解決されることを期待しつつ今後の状況を見守る、ということで、平成14年3月27日の住基ネット運用のための接続の諮問について条件付で適当と認めた。
条件とは次のとおりである。
「住民基本台帳ネットワークシステムについては、住民基本台帳法の改正により実施されるものであり、適法と推定される。
しかし、運用面等に不明確な部分があり、運用の仕方によっては市民のプライバシーを侵害する場合も考えられる。今後審議会が個人情報保護条例第28条第2項により意見を述べた場合においては、審議会の意見を十分尊重し、個人情報保護のために必要な処置をとること。」
平成14年8月、「所要の措置」の一つである個人情報保護法が制定されないまま第一次稼働が始まった。さらに12月には、93事務に限るとされていた本人確認情報の利用が、行政手続オンライン化関係三法により包括的に264事務にまで一気に拡大された。
今年、個人情報保護法と行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)が制定されたが、この法律については後に述べるように多くの問題点が指摘されている。
他の市町村では、まだ個人情報保護条例を制定していないところもあり、また、長野県本人確認情報保護審議会の報告にあるように、市町村のセキュリティ対策は万全でない。
逗子市では、市民が条例に基づき、自分の住民票コードの削除請求、住民票情報の提供中止請求、通知済みの住民票コードの抹消請求を行ったが、実施機関は拒否決定をした。これに対する市民の不服申し出について、個人情報保護委員は請求に理由があるものとし、県その他関係機関と必要な協議をするなどの措置をとるよう市に求めた(平成14年11月13日意見書)。しかし、国及び県はこれらの請求を認めていない。

このような状況で第二次稼働を続ければ、市民のプライバシーが侵害されるおそれがあると考え、条例28 条2 項により審議会は意見書を提出することにした。

第3 意見書の理由
1 .逗子市が貫くべき姿勢
日本国憲法13条は「全ての国民は個人として尊重される」として「個人の尊厳」をうたっている。プライバシー権がこの条文を根拠とした憲法上の人権であることは、今日誰もが認めるところである。
プライバシー権は、従来「私事をみだりに公開されない権利」「一人にしておいてもらう権利」と考えられてきた。しかし、近年では、「他人が自分の情報についてどの情報を持ち、どの情報を持ち得ないかを自ら決定し、自分の情報がなぜ、いつ、どのようにして収集され、保管され、提供されるのか知り、また、その情報が誤った情報であったり不完全な情報であった場合には訂正・削除できる権利」いわゆる「自己に関する情報の流れを自らコントロールすることができる権利」(以下「情報プライバシー権」という。)も含まれると解釈されるようになってきた。
これは、情報通信技術の飛躍的な発展に伴い、個人情報が無制限に流れ、自分の知らないところで情報が集められ管理されるようになり、国民が物心にわたり不利益や損害を被るという危険が出てきたためである。

逗子市の条例は、この新しい考え方をもとに、憲法13 条の「個人の尊厳」の維持を実現するため、情報プライバシー権を保障している(条例1条)。具体的には、実施機関の個人情報の取扱い・収集・利用及び提供の制限の規定、自己情報の開示・訂正・中止・削除請求権の保障の規定を設けている。

今年成立した個人情報保護法でも、「個人の人格尊重の理念の下に」個人情報を適正に取扱うことを基本理念として(3 条)、利用目的による制限、適正な取得、第三者提供の制限、開示・訂正・利用停止請求権など、逗子市の条例とほぼ同じ項目を条文に規定している。
ところが、個人情報保護法と同趣旨に立つはずの行政を対象とした「行政機関個人情報保護法」では、情報プライバシー権が十分保障されないのではないかという疑問が多く出されている。問題となる点を列記する。
@ 利用目的の特定(3 条1 項)・利用目的の変更(3 条3 項)・目的外利用及び提供(8 条2 項)について行政機関の裁量の幅が広すぎる。
A 個人情報ファイル簿の作成公表に多くの例外を認めている(11 条2 項)
B 人種及び民族、思想・信条及び宗教、犯罪歴、社会的差別の対象となる社会的身分など、いわゆるセンシティブ情報の収集禁止規定がない。
C 2つ以上の記録システムに含まれる記録をコンピュータで結合させるデータマッチングの禁止規定がない。
D 制度の運用を監視・監督する第三者機関の規定がない。
E
住基法改正案が国会で審議されたとき、議員からあいついでプライバシー侵害のおそれがあることを指摘され、国はこれに対して、住基法附則1条2項を設け「所要の措置」として個人情報保護法を制定することを確約した。しかし、これは単に「個人情報保護」という名のつく法律が成立することではなく、プライバシーが実質的に十分に保障される制度が確立することであったはずである。
行政機関個人情報保護法の問題点と、今までに行政機関で起きた多くの不祥事に見られる意識の低さを考え合わせると、今の制度で国民のプライバシーが十分保護できるとは言いがたい。
したがって、現在の住基法では、「所要の措置」はいまだに充たされていないと言える。

これらのことを考えれば、市は、住基ネットを「法令の定め」があるから、もしくは「法は条例より優先する」からという理由だけで、市民の本人確認情報を送信するべきではない。市は、あくまでも憲法に定められた「個人の尊厳」を維持する立場に立って、条例に基づき、市民の権利を守るべきである。

また、憲法92条「地方自治の本旨」からも同じことが言える。住基ネット事務は、住民基本台帳管理事務の一つとして規定されていることから、これはまぎれもなく市町村の自治事務である。
国の行政機関等は本人確認情報の提供を受ける立場であり、住基ネットの管理主体ではない。取得後の管理利用については責任を生じるものの、市町村の住基ネットの管理に責任を負うものではない。市町村が主体的に管理運用する立場にある。
この点から考えても、市は住基ネットについて主体的に判断し、市民の基本的人権を擁護する態度を貫くべきである。

2 .住基ネットのメリットとデメリット
住基ネットが稼動することによって、どのようなメリットとデメリットが生ずるか検討する。
(1)メリット
メリットとして、国は、国民に次のような利便性をもたらすと強調している。
・本人確認が容易になるので、行政機関への申請などに住民票の添付が不要になる。
・住民票の写しの交付を住所地以外のどこの市町村でも受けられる。
・ 他の市町村へ転入するとき住基カードを利用すれば、転入届に転出証明書を添付する必要がなくなる。

しかし、これらは市民が頻繁に利用するものではなく、市民生活に大きく貢献するものではない。

(2)デメリット
これに対し、デメリットは大きく分けて次の5 点が挙げられる。

@ 個人情報の流出・名寄せの危険
住基ネットは、本人確認情報として、氏名・住所・性別・生年月日(以下「4情報」という。)と変更履歴、それに国民全員に割り振った共通番号を付して一元的にコンピュータで管理する。コンピュータの特徴は、データを大量にコピーすることができ、そのコピーをネットワーク上で無制限に流すことができる、あるいは、データを目的別にマッチングさせたり、目的ごとに検索することができることにある。
これらの特徴から、次のようなことが生じる。

まず、住基ネットでは情報が流出する危険性が大きい。この点について、国は十分なセキュリティ対策を講じていると説明している。しかし、長野県本人確認情報保護審議会の報告にあるように、現在の市町村での実態は「万全」と言うには程遠い。
また、どのような対策を講じても、人為的なミスによる流出は防ぐことができない。このようなデータが高額で取引されることから、故意による情報の流出のおそれもある。罰則規定の強化による効果が期待できないことは、民間企業で不正な情報の流出が後を絶たないことからも明らかである。

第二に、名寄せの危険がある。共通の住民票コードがあれば、一人についての個人情報を簡単に集めることができる。ある人についての情報全てを他人、或いは行政機関が知ることも可能になってしまう。
このような名寄せに対して、個人情報保護法及び行政機関個人情報保護5.法に禁止規定はない。

A 情報プライバシー権が十分尊重されていない
住基ネットでは、国民ひとり一人の意思に関わらず、住民基本台帳に載せられた4 情報が市町村から送信される。
国は、4情報について、住基法11 条によって誰でも調べることが出来るものであるから、プライバシーには当たらないと説明している。
しかし、現代の高度情報通信ネットワーク社会においては、4情報は他人に知られること自体が不利益になる。特に、ストーカー行為やドメスティックバイオレンスから逃れたい人にとっては、身体、生命の危機にも係る。
住基ネットでは、選択性を導入した自治体を除き、自分の本人確認情報を接続するか否かの決定権が全く無視されている。

また、自分の本人確認情報が、いつ何のために利用されたか知ることのできる制度も、住基法には規定されていない。自治体の要望があって、国は現在、住基ネットによって提供された本人確認情報・提供先・提供年月日・利用目的を開示請求できるよう、アクセスログの開示の準備を始めた。
しかし、これによって取得した情報をどう処理したかまでは知ることができないし、行政機関が「相当の理由がある」と判断して、特定された目的以外に利用した場合には、追及することもできない

B財政負担
住基ネットに関する市町村への財政負担は大きい。住基カードの発行について、国の試算は1枚2,000円のコストがかかるとしている。このうち1,000円を地方交付税によってまかなうことになっている(総務省の方針)。残り1,000円について逗子市の場合、交付を希望する市民が500 円を負担することになっている。
したがって、住基カードを発行すればするほど、市町村の財政負担は増えることになる。
平成11年当時の総務省の説明によると、システム立ち上げの初期経費で約400億円、その後の通常経費に毎年約200 億円は必要としている。逗子市においては、現在までに3,400万円かかっている。
市町村にとって、今後どのくらいの費用がかかるのか、正確な数字は国民に知らされていない。

C市町村の負担
住民基本台帳事務は、自治事務として市町村自らの意思と責任の下でなされるものである。しかし、住基法が改訂され、住基ネットという国家の事業が組み合わされたことにより、問題が生じている。
住基ネットを運用していくためには、市町村が負う財政的な負担・人的な負担が大きい。
管理責任も市町村が負う。もし、住基ネットの管理上に瑕疵があって、誰かに損害を与えた場合、自治体は国家賠償法に基づく責任を負わなくてはならない。損害は第二次稼働が始まった現在では、全国広範囲に広がるおそれもある。
総務省は、接続の中止を検討している自治体に対して、住基法36条の2第1項を根拠に接続を中止することはできないという見解を示している。ならば、セキュリティが不十分と知りながら、接続を中断することもできず、そのままで損害が生じた場合、責任は自治体が負わなくてはならなくなる。それではあまりに理不尽である。もし、このような見解を示すなら、住基ネットにおける責任を国がとるべきではないか。

Dその他
デメリットとして、地方自治情報センターへの情報の一極集中による弊害も指摘されている。地震のような大災害が起きた場合、地方自治情報センターのコンピュータがダウンしたとき、どうなるのか。
また、8月に起きたコンピュータウイルスによる攻撃により、東京都世田谷区が住基ネットを切断したことは、記憶に新しい。今回は幸いにも事なきを得たが、これからも、このようなことは頻繁に起こりうる。

3 .住基ネットのデメリットを補完する措置
上記に述べたとおり、住基ネットのメリットとデメリットを比較すると、デメリットが大きいと考えられる。そこで、これまでに挙がったデメリットを補完するものとして、少なくとも次の措置が必要である。

(1)安全性確保のための制度的担保
住基ネットの安全性確保のため、次の3 点の事項を含んだセキュリティポリシーの策定が制度的担保として必要と考える。
@ 定期的な内部監査の実施
A 外部監査の実施
B セキュリティの研修
さらに行政機関のセキュリティポリシーを実効性のあるものにするよう不断の努力をしなければならない。
安全性確保の制度的担保は、逗子市のみではなく、住基ネットが接続されるすべての自治体で確保されなければならない。それが確認されるまでは、住基ネットへの接続を一時切断する措置を検討する必要がある。

(2)条例10条1項2号による本人の同意
条例10 条では収集した個人情報を目的外に提供することを原則として禁じている。さらに、11 条において、オンライン結合の特殊性をかんがみ「公益上の必要があり、かつ個人の権利利益を侵害する恐れがないと認められるときでなければ、オンライン結合による個人情報の提供を行ってはならない」と規定している。
条例10条1項1号には、例外規定として「法令」の規定にもとづき提供する場合を定めている。ここでいう「法令」とは、提供が義務付けられているものに限られおり、条例の解釈運用基準では、次の3つを例示としてあげている。
・民事訴訟法上の文書提出命令
・情報公開条例9 条により公開請求手続がとられ請求者に公開する場合
・条例14 条の開示請求に応じ本人に個人情報の開示をする場合
(条例の解釈運用基準10 条関係)
このことから、法令の規定に基づき提供できるというのは、個々の個人情報について具体的にどの範囲で目的外提供するのかが明確にされたうえ、その必要性と合理性については司法手続又はこれに類する手続により判断されることが予定されていると理解できる。
この点、住基法に基づく住基ネットにおいては、個人情報流出や名寄せに利用される危険があるうえ、提供を受けた行政機関が「相当な理由がある」と判断して目的外利用をした場合に、その判断をチェックする司法(類似)手続もなく、追跡する方法もないという問題があり(これらの問題は、たとえ制度的担保が確保されたとしても残る問題である。)、条例がここにいう「法令」として予定したものとは大きく異なる。したがって、住基法をここでいう「法令」に当ると解することには、強い疑義がある。
そこで、住基ネットに接続する場合には、制度的担保が確保されたことを前提として、条例10 条1 項2 号に基づき、住基ネットに自己の本人確認情報を接続することに「同意」した市民の情報のみを送信する方法を検討するべきである。なお、ここにいう「同意」は本人の明確な意思表示が確認できるよう文書によるべきである。また、「同意」を得る際には、住基ネットのメリットとデメリットを十分承知できるよう情報提供をしなければならない。

付言すると、平成14 年11 月13 日に逗子市個人情報保護委員から出された意見書のとおり、請求者の住民基本台帳に記載された住民票コードの削除、通知の中止、通知済みの住民票コードの抹消をするよう、市は引き続き、県その他関係機関との必要な協議をするよう申し述べる。

(3)市は説明責任を尽くすこと
(2)で述べたとおり、「本人の同意」を得るためには、市が住基ネットについてメリットとデメリットを全て示して、市民に分かりやすく説明するべきである。
平成14年12月15日から15年2月28日まで、市は「広報ずし」で住基ネットに関する市民意見を募集したところ257名の市民から意見が提出された。
その内容は、個人情報の漏洩に対する危惧と不安の声、接続の中止、または選択制を望む声がほとんどであった。注目すべきは、これだけ長い期間募集したにもかかわらず、住基ネットを肯定する意見が一つもなかったことである。
これは、行政の掛け声とは裏腹に、住基ネットの利便性を期待している市民が非常に少ないことを示している。また、広報の内容がわかりにくく、制度自体が理解されていないということも考えられる。
市民が自己決定権を行使するためには、情報の公開と十分な情報の提供が必要不可欠である。

(4 )住基カードについて必要な措置
第2次稼動に伴い、住基カードが希望者に発行されることになる。
住基カードは、ICカードであり、そこには膨大な情報を入れることができる。国はその利便性とIC カードであることの安全性を強調している。
しかし、ICカードは一定の安全が確保されているとはいえ、他から読み取られることが絶対ないとはいえない。他人への貸し出しやパスワードを人に教えることにより、本人自身がセキュリティを解除してしまうこともありうる。
住基カードの交付を希望する者には、カードの利点だけではなく、その危険性、予防の仕方、盗難や紛失があったときの対処の仕方まで、市民に分かりやすいよう十分に説明するよう提言する。
また、住基カードは市町村が発行するので、転出の場合、市町村に返納しなければならないこととなる。そうすると、住基カードに個人情報が入ったまま返納するわけであるが、この処理については、法律に規定はなく政令に委ねられている。市は、返納を受けてから処分までの間に、個人情報が漏れることのないよう、十分注意すべきである。

な お、住基カードに市が独自に入力する内容等については、平成14年8月2日に提出した意見書のとおり、当審議会と事前に十分協議するよう重ねて要望する。

第4 結語
既に述べたとおり、住基ネットのデメリットは、情報プライバシー権を脅かし、個人の尊厳を侵しかねない深刻なものである。これに対し、住基ネットのメリット(必要性)は、国家の行政にとってより便利であるという程度のものに過ぎないと思われる。
よって、逗子市は、当審議会が「第1 意 見書の趣旨」で述べたとおり、対処すべきである。